前回は、祖父・唯是日出彦と「知床旅情」について書きました。
今回から数回に分けて、日出彦と軍用犬の関わりについて書いてみたいと思います。
日出彦は戦前、帝國軍用犬協會(現・日本警察犬協会)の役職者を務めていたことがあります。わが国における軍用犬や警察犬の育成に貢献した人物の一人と言っても過言ではありません。しかし、旧軍に関わる功績のため、戦後はその事実が封印され、ほとんど知られていません。
戦争に関わることであり、賛否両論あるとは思いますが、古い資料を発掘することができましたので、歴史的事実として記事にいたします。ゆえに、戦争や動物愛護の是非を論じる目的ではないことを予めお断りしておきます。
日出彦が犬に興味を持った経緯ははっきりしません。当家には話が残っていませんが、幼少期から犬を飼っていて、何かで知識を身に着け、ある時期から軍用犬の育成に関わるようになったのでしょう。日出彦の生涯について書かれた文献には、「生来動物好きだった日出彦氏は、シェパードを早くから飼育していた。軍用犬協会の役員としてその道の権威者で、満洲への軍用犬の輸送指揮官をしたこともあり、終戦後はNKCHSAを誕生させ「犬界」でもその名を知られた。」とあるのみです(『月刊さっぽろ』140号)。近年、当家に関する歴史を調べる過程で、この記述を裏づける資料を発掘できました。
※NKC……日本ケネルクラブ、HSA……北海道シェパード犬登録協会
帝國軍用犬協會は、1933(昭和8)年に陸軍省所管の社団法人として発足しています。協会は全国に支部を置いていましたが、対ソ・対北支での活用を想定してか、軍用犬の飼育地となったのは寒冷の北海道であり、道内における組織拡大および飼育で中心的役割を果たしたのが日出彦でした。当時、日出彦は小樽新聞社で企画部次長の職にありましたが、国家総動員の流れの中、社業と並行して協会にも関わったのだと思われます(戦中は協会業務を優先した様子も窺えます)。
日出彦は、陸軍省嘱託の検査官と協会の常任審査員とを兼任し、各地の訓練競技会で犬の検査・審査を担当していました。訓練競技会で合格した優秀な犬は、陸軍と飼い主の間で売買契約が交わされ、軍犬候補として入隊しました。
また、協会は『軍用犬』という月刊の機関誌を発行し、軍用犬の育成と訓練の啓発に努めていました。
『軍用犬』には、日出彦の執筆した記事や挿画、俳句等が多数掲載されました。ほぼ毎号に記載や記事があることから、「その道の権威者」という評価はあながち間違いではありません。
その2へつづく
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