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祖父・唯是日出彦の生涯について、「唯是日出彦と軍用犬」というテーマで記事を書いています。その8で、今回が最終回です。

唯是日出彦と軍用犬 その1

唯是日出彦と軍用犬 その2

唯是日出彦と軍用犬 その3

唯是日出彦と軍用犬 その4

唯是日出彦と軍用犬 その5

唯是日出彦と軍用犬 その6

唯是日出彦と軍用犬 その7

前回は、戦後の北海道における日出彦と犬の関わりについてご紹介しました。今回は、日出彦がその生涯を通じ、犬とどう向き合ったのかを、ある芸術家の回想から探ってみましょう。

現代版画の巨匠、一原有徳(いちはら ありのり。1910~2010)の著書『脈・脈・脈 山に逢い、人に逢う旅』(現代企画室、1990年)に、「犬の声[故・唯是日出彦]」という随筆が遺されています。長くなりますが、一部を抜粋し引用します(原文ママ、下線は筆者)。

 唯是日出彦さんは、…現在の北海道新聞の前身の一つである「小樽新聞」社の漫画記者であった。後、中央バス会社の顧問としてバスガイドのシナリオを書かれ、ひろく知られた「名文句」がある。

 口語歌並木凡平の「新短歌時代」後改題「青空」の同人で、木版画の表紙をつづけられた記憶がある……。また、斎藤清、棟方志功なども出品していた小樽の光土社展にも油絵を発表していたという。

 何よりも唯是さんの人生で、心をそそがれたのは、シェパード犬ほか犬の育成であった。「愛犬の友」ほか犬の専門誌によく執筆され、…一緒になって話すことは、犬のことが多かった。

 私が犬を飼ってみて、唯是さんが、単に犬の権威というばかりでなく、犬への愛情なみなみならぬものを深く感じさせられた。愛犬家の大方は、血統証がどうのこうの自慢にする。唯是さんにはそれがなかった

「あんたの犬いい犬になったネ。骨格がよくて、会に出しても恥ずかしくない犬だが、どうも犬には純潔が尊ばれるしきたりがあってネ、生まれより育ちというわけはいかないんだナ」

「あんたとこの野良犬どうしたの、このごろ見えないネ。毒まんじゅうだって! 道産子忠犬ハチ公、可哀想に!」

 この犬、放し飼いで、毎日主人の職場に弁当をとどける雑犬で、野良犬と呼んでも相手を傷つけなかったのも、唯是さんの犬への愛情のせいであろう。こんなことも聞いた。

 テレビ番組に、名犬ラッシーやロンドンがあるが、コリーやシェパードを名犬に仕立てるのはあたり前で、サーカスの犬は雑犬だ。雑犬の中に名犬を見出すのが犬使いの腕であると……。実は、私の雑犬も唯是さんの話で飼う気になったものである。

 唯是さんが亡くなられる十日ほど前のことである。ルルをつれているときに唯是さんに逢った。立止って「大きくなったね。ほう、やはり眉毛はのびなかった」と犬に接する唯是さんの顔には、純血、雑犬の区別などない。ルルもその心を知ってか、話をする横に坐って唯是さんを見上げる目が光っていた。

 芸は唯是さんに聞いてひと通り覚えこませたが、今思うに何かの特殊な芸を唯是さんに仕込んでもらい、遺産にしておきたかったと、残念に思う。

 唯是さんは昭和四十一年十月亡くなった。

  弔 犬の声、声それぞれに夜の秋    九糸

(一原有徳『脈・脈・脈 山に逢い、人に逢う旅』)

解説は不要でしょう。一原さんが書いてくださったことにすべてが包含されています(俳人「九糸」でもあった一原さんは、俳句を詠んで結んでいます)。軍用犬であれ、警察犬であれ、盲導犬であれ、人の役に立つ犬を育てること、それが日出彦の目指すところでした。人あっての犬、犬あっての人。人間とイコールパートナーになれる名犬を見出し、育てること。そこに情熱を注いだのです。本質はアイロニーあふれるクリエーターだった日出彦にとって、人間社会へのアンチテーゼを含め、自ら育て上げた犬たちも芸術作品の一つだったに違いありません。

唯是日出彦
唯是日出彦(出典:『月刊さっぽろ』140号)

今回をもって、「唯是日出彦と軍用犬」シリーズを終わります。お読みいただき、ありがとうございました。本ブログで後日、“永遠の日出彦少年”の別の面も取り上げたいと思っています。

本シリーズの執筆にあたり、日本警察犬協会に数々の歴史的資料を提供していただきました。深謝申し上げます。

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唯是 一寿

唯是家第8代。1972年、北海道生まれ。早大卒。団体役員、会社役員。東京都港区在住
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By 唯是 一寿

唯是家第8代。1972年、北海道生まれ。早大卒。団体役員、会社役員。東京都港区在住

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